ライター・藤丸心太(ふじまるじんた)のブログ。本の感想とかゲイネタとか創作系など。お仕事依頼などはメールで。リンク・TB自由。コメントは承認制。fujimarujintaあっとgmail.com (あっとを@に変更)


by bogdog

どこにもない国—現代アメリカ幻想小説集

c0139007_22232657.jpg
 

柴田元幸が翻訳し、編纂したアメリカ幻想小説アンソロジー。レベッカ・ブラウンの短編「魔法」が収録されている。
 
 翻訳のクセというものは、どうしてもこういう翻訳小説にはあるが、こうして別々の作家のアンソロジーでまとめて読むと、あらためて「柴田元幸の訳」というものがわかる気がして不思議。ニコルソン・ベイカーの短編も収録されてるんだけど、いつもの翻訳(岸本佐知子)とは違うせいか、あまりなじみのないホラーのせいか、別の作家かと思った。

 レベッカ・ブラウンの「魔法」が とてもよかった。
 女王様の”彼女”と、”私”の話。(この人はレズピアンを公言している作家であり、作中のカップルはほとんど女性同士)”彼女”はいつも完璧な正装、鎧を纏っており、その素顔を見ることはできない。”彼女”は”私”を”彼女”の城につれて帰り、”私”と”彼女”を愛しあう。”私”は”彼女”の素顔を見ようとするが、彼女の鎧の中をみることはできず、あるとき”彼女”は”私”に暴力をふるい始めるが、”私”はそれを受け入れるままにしていた… という話。これって、DVの話そのままじゃないの。

 結局、”私”は逃げ出し、そして自分の力を見出して、”彼女”と会う前のように生きることもできようになり、同じように「損なわれた人」を癒すこともできるようになる。訳者のあとがきの言葉を借りるなら、「レベッカ・ブラウンは愛(と、背中合わせについてくる権力)」を描く作家なのだ。

 「魔法」とはなんだろうか? と、考えてしまう。
 ”私”が”彼女”に迷わずついていったこと? "彼女"を崇拝し、自分はなさけない人間だと思い込み、”彼女”に暴力を受けてもそれに甘んじていたこと? 奇跡的に逃げ出し、仲間に出会い癒されたこと? 逃げ出してもなお、"彼女”の思い出が”私”を苦しめたこと?

 すべては、"私"の思い、本当にあったにしろ、存在しなかったにしろ、”私”がそうだと思った、まったき『幻視』。存在しなくても、それが『ある』と思えば、人は捕らわれてしまうのだ。これが「魔法」なんだろうか。

  他の短編でとくに心に残ったのは、ケリー・リンクの「ザ・ホルトラク」カナダの国境近くのコンビニで働く主人公。店に表れるゾンビ(とくになにもしない) 主人公が想いを寄せる、犬のシェルターで働いていて、犬を処分する前にその犬と一緒にドライブに行く女。いつも変なパジャマを着ていて、女にトルコ語を教える同僚… 幽霊とかゾンビとか、出て来てもとくになにもしないところとかよかった。
[PR]
by bogdog | 2007-09-06 22:24 | 本の感想